キミニアイヲ．

そんな莉子の気を知るはずもない男は、俯く莉子の目の前に右手を差し出す。



「俺は楓。よろしくね、莉子ちゃん」



カエデ……


綺麗すぎる笑顔を見つめながら、その名前を頭の中で反芻する。



ぎこちなく握った楓の手は、指が長く大きくて…

とても温かかった。



こんなふうに、よこしまな気持ちがなく男に触れたのは初めてと言ってもいいくらいで。


…何故だか、不意に涙が出そうになった。



しかし、ほんの数秒で触れ合った手はぱっと離される。



「それじゃ、また今度ね」



楓は爽やかに微笑むと、軽く手を振って莉子から離れていく。



「あ……」



莉子は何か言いたかったが、言葉が出てこなかった。