奏ちゃん。

「いいなぁ、いとこ。私もそういう風に生まれたかったーっ」

スッと両手が引かれ、唐突に曲は途切れた。

少しの間をおいて、手は鍵盤に戻される。

おずおずと、まるで躊躇っているような様子だ。

ありえない。

千帆がピアノを恐れるか?

「……すごく優しい顔してた……」

 聞き取れないほどの小さな声でつぶやき、鍵盤にぴったり顔をくっつけて、千帆は目を閉じた。

頭の下から吹き出した無法な音は小さな部屋中に充満し、消えていこうとしない。

千帆はどんよりとその中で光を求めるかのようだった。

思い出したいものは見つかったか?

 『今見えているもの』を消し、瞼の内の記憶の中に、見たはずのものを探す。

 鳴り過ぎるピアノ。

音はどんな時にも邪魔にはならない。