お雪は平然とこう打ち返して来た。
『細かい事気にすると早く老けるわよ』
 ムキィーーー!花も恥じらう十代の乙女に老けるとは何だ?老けるとは?あたしはもう一回、お雪がいる辺りのスクリーンの部分を指ではじく。そして、指の震えが止まっている事に気づいた。
 ひょっとして、こいつ、あたしが緊張しているのに気づいて、リラックスさせてくれたわけ?あたしは頭をブンブンと横に振った。いや、そんなわけない!こいつにそんなデリカシーがあるわけない!
 機材をセッティングし終えてギターのチューニングにかかった頃から、土曜日の夕方という事もあって、公園に人が集まり始めた。もう九月だから、昼間はまだ暑いが夕方になると風が程良く冷たくなって戸外で過ごすにはちょうどいい感じになる。
 それにカップルも多い。なんといっても小さな地方都市でデートに向いている場所が少ないから、この公園は定番のデートコースに入っていると学校でクラスメートが話しているのを聞いた事がある。あとは親子連れも多い。
 ライブ開始の時間になっても猛さんの姿は見当たらなかった。あたしは少しそれにホッとしていた。いくらあきらめて割り切ったつもりでも、今ここにあの人が現れたら平気ではいられないかもしれないから。
 ギターのチューニングが終わって、公園に人が集まり終わったようだ。パソコン画面が暗くなり、お雪が七頭身の姿に変わる。よし、全て準備は完了。あたしはギターの六本の弦を派手にジャーンとかき鳴らし、ライブの始まりを告げる。
 前のギターはアンプに繋いでなかったからあまり大きな音で辺りに響かなかったけれど、今度のこのエレガットは直接スピーカーに繋がっているから辺りに広がる音の響きが格段に違う。
 公園にいた人たちが一斉にこっちに顔を向ける。あたしはギターを膝の上に抱え、最初の曲を奏で始めた。