ボーカロイドお雪

 もし本当にお雪が、雪子ちゃんの魂が宿った、雪子ちゃんの生まれ変わりだとしたら、彼女の音楽への情熱を引き継いであげる人間が必要だ。あたしにはそれができる。なぜなら、あたしはこうして生きているんだから。
 もうあたしは迷わなかった。またあの公園でライブをやろう!それはあの人の、猛さんのためにじゃない。
 雪子ちゃんの歌声をもう一度この世によみがえらせてあげるため。あの、雪子ちゃんのお父さんであるおじさんの願いを代わりにかなえてあげるため。
 そして何よりも、あたし自身のため。あたし自身の夢をもう一度取り戻すため!

 と決意したのはいいけれど、家に帰って自分の部屋に戻っても、あたしはなかなかお雪をパソコンで起動させられないでいた。
 なにせ、あんな唐突な別れ方させちゃったわけだから。お雪だって怒ってるだろうし。うーん、最初に何と言って謝ればいいのか。
 あたしはたっぷり三十分ほど悩んだ後、結局いい考えも浮かばないまま、恐る恐るDVDをパソコンにセットしてソフトを起動させた。もうこうなったら、出たとこ勝負、なるようになれだ!
 ウィーンと音がして、パソコンのスクリーンに見覚えのある画面が出てくる。あたしはお雪に言うべき言葉を必死に考えていた。そして意を決して、パソコンのスクリーンに正面から目をやる。
 と、そこであたしは全然別の意味で目を丸くしてしまった。そこには二頭身キャラのお雪がいた。いや、いたのはいいんだけど……。
 お雪は黒いワンピースを着ていた。下のスカート部分はひだが少なくチューリップを逆さまにしたように広がったタイプ。白い胸当てに腰から下がる小さめのエプロン。頭には白いフリル付きのカチューシャ。
 これは、まさか、花の都の東京は秋葉原とか言うあたりでこの数年流行っていると聞くメイド服?お雪は体を左右にくねくねと振りながら、こうぬかしやがった。
「お帰りなさいませ、ご主人さま。ご飯にします?お風呂にします?それとも……わ、た、し?」