おじさんはしばらく黙りこんだが、やがて意を決したように口を開いた。
「交通事故でね……あの子はいつも携帯音楽プレーヤー持ち歩いてイヤホンで曲を聴いていた。外を歩いている時もね。危ないから注意しろといつも言っていたんだが。ある日母親と一緒に外出した時も周りの音が聞こえないほどボリュームを上げて曲を聴いていたらしい。信号のない小さな交差点で、母親が道に迷ったおばあさんに話しかけられて、その相手をしている時に、あの子は気付かずにそのまま歩いて道を渡ってしまった。ふいに母親がそばにいないのに気づいて、あわてて道を渡って引き返そうとした。そこへトラックが走って来ていたんだ。警察が言うには、運転手からは塀が邪魔になって、いわゆる死角に入っていたらしい。携帯プレーヤーの音で雪子も車に気がつかなかったんだろう……」
 おじさんはまた少し黙りこんで、胸のポケットから煙草の箱とライターを取り出した。
「いいかな?」
 それをあたしに見せながら尋ねる。あたしはちいさくうなずいた。
「即死だった……僕は女房を責めてしまった。お前が不注意だったからあんな事になったんだ、お前のせいで雪子は死んだんだ、とね。今思えば、ずいぶん残酷な事をしてしまったよ。あの子が死んで悲しかったのは、あいつだって同じはずだった。でも僕もすっかり気が動転してしまっていた。誰かにやり場のない悲しみをぶつけずにはいられなかった。もちろん、言いわけにはならないがね……それから三ヶ月後、僕らは離婚した」
 おじさんは煙草をくわえて火をつけ、自分の席の窓のガラスを少し開けて、外に向けて煙を吐き出した。二、三度煙草をふかした頃、車は次の赤信号につかまった。あたしはまたPDAをおじさんに向けた。
『でも、どうして死んだ雪子ちゃんの声がボーカロイドに?』