少し暑くなってきたので、あたしは屋根のあるベンチコーナーへ移動して途中のコンビニで調達してあったおにぎりとペットボトルのお茶でお昼ご飯にする。お腹が膨れたら眠くなってきた。
 辺りを見回したがもう公園にはあたし以外誰もいない。行儀悪くベンチの上に寝そべってひと眠りする事に決めた。鞄を枕にして横向きに寝そべり、一応スカートの上にハンカチを広げて置く。
 さすがに真っ昼間から女子高生を襲ってくるやつもいないだろうが。いたとしても、それはそれでいい。もう別にどうなってもいい。それでこの悪夢のような毎日の何かが変わってくれるのなら……

 夜の薄闇の中、ブゥオーとオートバイのエンジンが爆音を上げる。運転しているのは中学から同じ高校に入った先輩だ。その後部座席に乗っているあたしを、あたしが見ている。先輩は詰襟の制服の上着を、あたしは紺色の長袖のセーラー服を着ている。だから今は春だ。
 先輩の背中にしがみついてあたしはキャーキャー騒いでいる。先輩はバイクを走らせながら時々わざと右に左にグラっと揺らして見せる。あたしは一層ギュッと先輩の背中にしがみついて大げさに嬌声をあげている。
 バイクが山沿いの狭い道へ進んでいく。ああ、そっちへ行っちゃ駄目。でもその声は二人には聞こえない。
 分かっている。これは夢だ。あたしの見ている夢だ。だから分かっていても止める事もどうする事も出来ない。
 やがてバイクの上の二人は、あの悪魔に遭遇する。道の両端の木に結ばれ、道に横に張られたロープに。ヘルメットはかぶっていたが、顔の前は二人ともむき出しだった。
 先輩はバイクのスピードを上げるために前かがみの姿勢になっていたから、かろうじて直撃は避けられた。後部座席で浮かれて上体を起こしていたあたしはそのロープにまともにぶつかった。