ボーカロイドお雪

 あたしは公園に着くとまたトイレで着替えた。今日は白い半袖のブラウスに赤に緑と黄色の細い線が入ったタータンチェックのフレア・ミニスカート。花の都の東京で流行っているとかいう「ナンチャッテ制服」のイメージ。
 あたしの学校の制服は古臭いセーラー服タイプだし、この町の学校でブレザーやボレロ系の女子の制服のとこはないから、これぞ女子高生的色気!のはず。これであの人を悩殺だね!
 屋根のあるベンチへ移動し、いつものようにパソコンやスピーカーをセットしてギターをチューニングし終えた頃、あの人がこの前の女の子と一緒に公園の入り口から入って来るのが見えた。うん!今日はタイミングもばっちり。
 あたしは早速ギターをジャンとかき鳴らし、ライブを開始した。今日はG線上のアリアはなし。さっきお雪と言い争って少しムカついていた事もあったし、彼にはクラシックは効果ないと分かっているから、最初からあたしの作った歌で勝負。
 最初は六本の弦を上下にかき鳴らすストローク奏法でのロック調の曲。次は親指、人差し指、中指の三本で弦を一本ずつ連続して鳴らすアルペジオという奏法でスローテンポの曲。間にあたしが好きな女性シンガーソングライターの歌を入れる。知らない曲ばかりだと聞く方も飽きるかもしれないから。
 そして前半はアルペジオ奏法、後半はストローク奏法の悲しい恋の歌。あたしなりに考え抜いて工夫した曲の順番。
 演奏が終わって公園に夕涼みに来ている人たちからパラパラと拍手が起きる。あたしはあの人の方を見る。そしてやっぱりがっかりする。
 あの小さな女の子の方は歌い終わると同時に手を叩いてくれたけど、あの人の方はその子が手を叩いたのを見てから、それからあわてたように自分も拍手をした。うーん、まだ何かが足りない?何がいけないんだろう?
 そろそろ夏休みも終わるし、そういつまでも公園ライブをやれるわけじゃない。あたしは一大決心をした。何事であれ、本人に直接訊いてみるのが一番早い。あたしは機材をあらかた片づけてからPDAを手にして、あの人と連れの女の子が座っている場所へスタスタと歩いて行った。
 これでもかっ!という笑顔であの人に向かって掌をふる。隣の女の子にも。そしてPDAを彼に見せる。その画面には既にこう打ってある。
『どうでした?あたしの歌』
 女の子の方が答える。