ボーカロイドお雪

 あたしはぺこりと頭を下げ、ギターケースとキャリーバッグを抱えて公園を去った。ちょっと今の二人には罪悪感を覚えたけど、やっぱりやってみてよかった。わりと評判いいじゃん。
 でもあの人の反応は期待はずれだったなあ。何がいけなかったんだろ?家までの帰り道、あたしは重いギターケースとキャリーバッグを引きずりながら考えた。そしてふと思い当った。
 この服装かな?これだけの、女の子にとっては大荷物を運ぶのだから動きやすい恰好にしたけど、やっぱこれって色気無さ過ぎだった?

 それから十日、あたしは家にこもって曲作りに専念した。作詞作曲と言うと「すごい!」って驚く人も多いけど、ポップスを弾き語りで演奏する程度ならコツさえつかんでしまえばそれほど音楽の専門的な知識は要らない。
 歌詞とメロディーが頭に浮かんだら、まず歌い出しのギターコードを探す。明るい長調のメロディーならメージャーコード。ハ長調ならCコードという弦の押さえ方がある。暗い調子の短調の曲なら最初はマイナーコード。イ短調ならAm(エー・マイナー)というコード。
 最初のコードが決まれば残りの使うコードも大体決まってしまう。Cコードで始まる曲ならあとはFとGというコード。ハ長調の曲なら極端に言えばこの三つのコードさえあれば伴奏は出来てしまう。
 途中で短調に調子を変える時はエー・マイナーやDm(ディー・マイナー)などのイ短調に使うコードを混ぜる。こうすると結構複雑な和音進行になって、あたしみたいなアマチュアでもそれなりの伴奏になる。
 もちろんプロのバンドが作る曲はもっと複雑だけど、高校生がストリートライブとかで趣味でやる分にはこの程度の知識で十分。詩と曲がいいのが出来るかどうかは、まあ自慢するわけじゃないけど、あたしにも少しは才能があるわけ。