観光客も滅多に来ない小さな地方都市では、平日に昼間から制服の女子高生がうろつける繁華街などない。すぐに警官に呼び止められてゲームオーバーだ。だからあたしはいつもの様に、町の真ん中を流れる大きな川の横にある公園へ向かった。
 住宅街から離れているから人影はまばら。小さな子供を連れたお母さん連もここまでは滅多に来ない。大きな屋根のついた休憩所にはベンチが並んでいて、雨の日でも長い時間ぼっとしていられる。あたしのお気に入りの隠れ家というわけ。
 ま、あたしが学校さぼった事はすぐに学校からの電話で親には知れるだろうけど、お父さんもお母さんもしつこくは何も言わない。半分あきらめているのだろう。
 その日は天気が良かったので、あたしは芝生の上に腰を下ろして、ぼんやりと遠くの川面を眺めていた。この町の夏は好きだ。そんなに暑くならないから。あたしは鞄から音叉を取り出して近くの石を叩いて、そのキーンという響きに耳を傾ける。
 あたしは中学時代からギターをやっている。いわゆるフォークギターというタイプで、弦が金属で出来ている。その弦を調律する時に使うのがこの音叉だ。でもあの事故以来、ギターには触れていない。
 声は出なくてもギターを弾くのに問題はないけれど、ギターに合わせて自分で歌う、いわゆる弾き語りが出来るというのがあたしの密かな自慢だったから、ギターだけを弾く気にはなれない。
 高校に入ったら真っ先に軽音楽部に入部するつもりだった。うちの高校の軽音部はレベルは高くはないが、こんな田舎ではそれなりに一目置かれている。あたしはそこでボーカルをやるつもりだった。
 それもかなわぬ夢になった以上、もちろん軽音部には入らなかった。高校に入ったらお父さんにねだって買ってもらうつもりだったエレキギターも、話をしないままになっている。