「誠があのまま遅刻してくれれば、俺はすずと2人きりだったのに。
…行こう、すず」


ちょっぴり表情が笑ってない恋千くんに、なされるがまま。

手を引っ張られて、歩かざるをえない。


呼び止めは虚しく、愛琉さんは洋館の中に消えていった。



「すずはお昼に何食べたい?」

玄関を振り返ったあたしに、恋千くんは質問する……

「え?……うわっ!」

のは、いいけど、


「恋千くん、距離が近い!」

進路へと顔を移動させた瞬間、至近距離で絡んだ視線。



思わず後退しようとすれば、繋がれた手がそれを許してくれなかった。

これじゃ、そのうち恋千くんのペースに巻き込まれちゃう。



「隣で騒がれると、非常に迷惑なんですが」

誠の助け舟があるのが、せめてもの救いね。


「迷惑?
じゃあ誠は単独行動すれば?」

それに負けない恋千くんは、かなりの強敵だろうけど。


「恋千くん、とりあえず離れて。
ここは外なのよ」

このまま手を繋いで、こんなに近い距離で、街に出て行くなんて恥ずかしい。


ましてや、目撃でもされれば新しい誤解を生んでしまうかもしれない。