まるで尻尾をすごい勢いで振る犬みたいだわ。
「帰ってきたら、話する約束だったでしょ。
ぼくの部屋で一緒に喋ろう」
そのまま引っ張られて部屋に連れてかれそうなあたしを、また別の声が呼び止める。
「せーんぱいっ、夕飯の支度はしなくていいわけ?
ま、代わりに俺がしてあげてもいいんだけど」
誠の横をすり抜けて来た恋千くんの片手には、あたしが愛用中のエプロンが。
しかも、怖いくらいになぜか満面の笑み。
いつも通りと言えば、いつも通りなんだけど。
「そうすれば、先輩の料理にだけ睡眠薬を入れられるし。
今夜は俺の部屋に連れて行ってもいいよね?
あれ、今夜“も”だったかな」
なっ………
「えっ、ヒメ、いつもカミサマと一緒に寝て───」
「ち.違うわよ!
恋千くん、誤解を招く言い方をしないで」
佐久間さんが、まんまと信じきってるじゃない。
だいたい突然出てきて、そんなことを言うなんてやっぱり意地悪なのね!
「面倒なので、冗談を言うのはやめてください。
特に佐久間の前では」
そうよ、誠の言う通りだわ。


