お城では、料理なんてやらなかったし。
魔法学校に、料理の授業なんてものは存在しない。
“ここ”へ来てからは、毎日何かしらを作らなければならないという試練。
料理の作り方が載った本を見ながら、がんばってはみるものの……
「人間界の料理は、エシャルの料理とは違うんだもの。
仕方ないわ!」
ユール・ド・エシャル──通称エシャル。
「仕方ないで済ませるのは、単なる逃避では?」
皮肉っぽく言われるけれど、理由は他にもある。
例えば、料理をする時間が少ないとか。
「だって、全員の部屋にリビングやキッチン…それからお風呂も掃除しなきゃだし。
こんな大きいお屋敷の掃除をしてたら、料理を勉強する時間がないもの」
喋りながら思い出して、止まりっぱなしだった手を動かす。
掃除に与えられた道具は、箒とちりとりだけだし。
「……なら、」
誠さ……じゃなかった、誠はひらめいたように言葉を紡ぐ。
「いっそ、すべての場所の掃除を同時にやれば済むんじゃないでしょうか。
使えるんでしょう?魔法」


