「里斗」


落ち着いたトーンで告げられた、里斗(リト)という名。

ふと、以前里音が口にした言葉が聞こえた気がした。



【家族って呼べる人と暮らせてない】


そんなことない。

そう否定することは、難しい。



「あたしは、里音のことを家族だと思ってるわ」

唐突な意見に、驚いたようにこちらへ顔を向ける。

でも、すぐにまた優しく微笑んだ。


「血の繋がりだけが家族じゃないもの。
ね、そうでしょ?」

同意を求めて問いかければ、無言で頷く彼。


こんなあたしでも、ちょっとは役に立てているかしら。

里音の願い、叶えてあげたい。


あたしが“ここ”にいられる間に、幸せを多くしてあげたい。




「もうすぐか」

あたしが口を閉ざすと、話題が変わった。


意味は訊かずとも、わかっていた。


「えぇ、もうすぐお別れね」

目を合わせずに言うと、出てきたのはか細い声。

自分でも驚くくらい、小さく弱々しい声。



「ホタルの一件から、ずいぶんオレたちの事情に巻き込んじゃったな」

ごめんな、と続ける彼に静かに首を横に振る。