「“さん”は、やめてくれませんか。
呼び捨てで構いませんよ」
「え?」
驚きを隠せなくて、ついまた手を止めてしまう。
呼び捨てで、いいの?
本当に?
「じゃあっ、呼び捨てにする代わりに、あたしと話す時は敬語じゃなくてもいいわ!」
距離が一気に縮まったみたいで、嬉しい。
呼び方だけで、こんなに感覚が違うって不思議ね。
「いえ、断ります。
僕はタメ口で話すほど、あなたと親密になった覚えはありませんので」
「はへ………?」
でも、やっぱり距離はまだまだ遠いみたい。
呼び捨ては可で、タメ口は不可?
どこがどう違うんだろう。
人間界って上下関係や親密度の違いが難しいのね。
友達を増やすためにも、もっと勉強しなきゃだわ。
「ところで、掃除を一日中するくらいなら料理の腕を磨いたらどうですか」
「…というのは?」
「あなたの料理は、料理と呼ぶに程遠いからです」
今、新たな課題が目の前に。


