こんなに幸せなこと、あたしには他にないの。

最初の頃は、家族がいるエシャルが恋しくなることもあったけれど。


“ここ”にいられるのは少しだけだから余計……


みんなに出会えたことが嬉しくて、さよならしなきゃいけないことが悲しい。



「ねぇヒメっ、どうしちゃったの?
どっか痛いの?」

とうとう泣いてしまったあたしに、3人が困ってる。


それもそのはず。

いきなり泣き出しちゃうんだもの。

原因すら、わからないわよね。



しばらく立ち止まっていると、目の前まで近づく人の気配。


あたしの手首を握って顔から離す。

泣き顔を見られるのが恥ずかしくて、控えめがちに見上げれば


「めそめそしてんじゃねぇよ」

「うっ…」


伸びてきた手が、雑に涙を拭った。



「もうちょっと、優しくできないの!」

文句を言うと、愛琉さんはしかめっ面に。


「泣くなら自分の部屋で泣け」

言い捨てて歩き出す彼を目だけで追うと、もう洋館はすぐそこ。