だけど、ここで油断するわけにはいかない。
相手はすごく優しそうな人だけれど、説得が終わるまでは気を抜いたらダメ。
「誠が出てるなら、こっちも話すのに助かります」
これは、隣に座る里音が言った。
「あいつ、本当は帰りたくなんかないんだと思います」
彼の言葉に、誠のお母様は口角を少し上げたまま表情を変えない。
まるで、お行儀よくガラス張りのショーケースに飾らた宝石。
「あいつの…誠の“仕方ない”は、自分を言い聞かせるための言葉なんです」
正座した膝の上に、両手をぎゅっと握りしめて置いたまま。
真剣な顔をして話す里音を、下唇を噛んで見ていた。
「勉強なら、洋館でだってできます。
あいつにとって、一番いい環境に居させてやってください」
「あたしも、そう思うわ。
だから、どうか誠を洋館に───」
頭を下げた里音につられ、あたしも頭を半分下げた時
「誠は、直接あなたたちに洋館にいたいと、そう言ったのですか?」
問いに顔を上げ直すと、彼女から笑みは跡形もなく失われて。


