「あたし、魔法は───」
上手くできないの。
そう口を開きかけた時、教室の扉が勢いよく開かれた。
「姫様!
いきなり外出されては困ります」
ついさっきまで一緒にいた、教育係の人だ。
あたしが勝手にお城を飛び出したから追いかけてきたのね。
「ごめんなさい、もうお城に戻らなきゃ」
呼び戻されるのは不服だけど、今だけは感謝だわ。
下手に魔法を使っては、姫の面目丸潰れだし。
お城で用事があると言い訳し、魔法学校を離れた。
◇
夜、久しぶりの自分の部屋。
桃色のカーテン。
純白のレース。
花の飾りがついた鏡。
甘い香り。
フカフカのベッド。
「はぁー‥」
ベッドにうつ伏せたまま、深いため息をつく。
今日は疲れた。
人間界では忘れていたけど、あたしは姫なんだ。
お城の外に出れば、みんなに期待の目を向けられる。
失敗なんて、絶対にできない。


