正論を言われ、言葉に詰まる。


「実際には、なってないんだから大丈夫よ」

笑って必死に誤魔化そうとすると、結局相手はため息をつくだけだった。



夜の廊下はとっても静か。

足音しか聞こえない。

壁を越えた外の世界も、おそらく穏やかな月夜。


2階から物音がしないから、恋千くんはもう寝たのかしら?

家出してしばらく、自分のベッドで眠るのは久しぶりのはずよね。



そんなことを考えながら、到着した誠の部屋の前でランプを受け取る。

ドアノブに手をかけた彼を引き止めるように、短く名前を呼んで。



「誠にも家出したい時ってある?」

何気なく浮かんだ疑問を口にすれば

「ありますよ」

何食わぬ顔で簡単に答えられる。


「そう、誠でも洋館が嫌になることがあるのね」

なんだか寂しい気持ちで呟くと、すでに誠は部屋に入った後だった。


すぐ動けず佇んでいれば、また扉が開いて。

「言い忘れました。
部屋に戻る際、ちゃんと電気をつけてくださいね。
くれぐれも転んで悲鳴をあげないように」


な.なによっ、バカにして。


言うだけ言って閉められた扉に、心いっぱいに文句をぶつけた。