差し出された右腕には、痛々しく引っ掻き傷が。
佐久間さんが泣いてる理由は、この傷ね。
「く.黒猫さんがっ、逃げようとして引っ掻いた」
悔しそうに黒猫を潤んだ瞳で睨みつけて言う。
そんな彼を知らんぷりして、黒猫は鈴を鳴らしながら恋千くんの足下へ。
どうやら、恋千くんがお気に入りのご主人様らしい。
聞いたところによれば、佐久間さんは人生で初めて猫に引っかかれたみたい。
それじゃあ、びっくりしちゃうわよね。
爪って痛いもの。
「うっせぇな」
鼻をすする佐久間さんを里音が慰めていると、今度は愛琉さんの登場。
次から次へと、キッチンに人が集まってくる。
「おいホタル、その猫飼うなら鎖に繋いどけ」
「ダメだよっ…うぅっ、可哀想…っ束縛禁止!」
愛琉さんは、部屋で寝っ転がっていたのか髪がボサボサで
「束縛じゃねぇよ。
しつけだ、しつけ!」
苛立って反論する間、髪を手でぐしゃぐしゃにするから余計ヒドくなっていた。
このままだと、ご飯の準備がスムーズにいかない気がするのはあたしだけ?


