歩み寄る途中で、すぐに恋千くんの存在に気がついたみたい。
頬を掻きながら、向けられる苦笑い。
「えっと……いっつも手伝ってもらっちゃってるし、だから今日は里音は休んでて?」
せっかくの親切を断るのは、相当な罪悪感だわ。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」
里音の性格が優しすぎるから尚更。
3人で料理っていうのも案だけど、まだ恋千くんも里音もお互いよそよそしさが残ってる。
いきなり共同作業とか、ハイレベルだと思うの。
何とも言えない空気の中、突如響き渡ったのは叫び声。
「うわぁぁぁぁあ」
場所は二階から。
階段を下りる足音が聞こえて、現れたのは鈴を揺らした黒猫。
続いて、先程より大きな足音を立てて現れたのが佐久間さん。
何事かと、ここにいる全員が佐久間さんに注目した。
「大丈夫…?」
恐る恐る口を開けば、相手は涙を瞳いっぱいに溜めて右腕をゆっくり手前に出す。
「あぁ、これじゃ痛いよな」
あたしより先に、里音が佐久間さんの腕を掴んだ。


