黒猫が逃げ出したことを知らなかった愛琉さんは、何か察したようにこっちを見てきたけれど。
いいえ、これって睨まれてるのかしら?
文句が飛んでくることを警戒しつつ、逃げるように向かった先はキッチンで。
何事もなかったように、普段通りに夕飯の準備に取りかかる。
と、今日は珍しくすぐそばに恋千くんの姿。
「何か手伝うことない?」
何気なく言われた質問に、とてつもない違和感を覚えた。
あの、あたしが呼びに行くまで部屋にいる恋千くんが手伝うことがないかと………
まさか、こんな日が来るなんて。
「迎えに来てくれたお礼だから、今日だけ手伝おうと思って」
「今日だけでも何でもいいわ。
手伝ってくれようとするなんて、恋千くんも成長したのねっ」
嬉しいというか、感動したというか。
とにかく、その気持ちが心に染みて大きな声で返事をした。
そこへ、今度は里音がやって来る。
「すず、手伝うよ──って、今日は恋千がいるからオレはいらないか」


