立ち上がって向ける、とびっきりの笑顔。
「一緒に帰りましょう?」
「うん、でも……みんなにどういう顔して会ったらいいか、わかんなくって」
石の転がった川沿いを、ゆっくり数歩進む。
足元から視線を上げて振り返ると、そこには困った顔をした恋千くんが。
だから伝えたの。
「自分の家に帰って、何が悪いの?」
って。
そしたら、ちょっと考えてから
「久しぶりに、言いたいな。
“ただいま”ってさ」
ちゃんと笑い返してくれた。
土手を登って、さっき走って来た道を見る。
すると、少し先のほうでついて来いと言わんばかりに黒猫の姿。
あたしが前進すれば黒猫も少し歩いて、こちらを確認するように回れ右。
「無理矢理なことはしないから、あなたも今日から洋館に来ないー?」
大きめな声で、勧誘してみたり。
猫と言っても使い魔だから、たぶん人間の言葉は理解できるんだと思う。
「動物と会話?
先輩ってホントに変わってるよね」
そんな様子を、恋千くんは異様に感じているみたいだけど。


