なに?と聞き返すことなく、目を開いてから顔を上げる。
相変わらず、後ろからでも俯いているのがわかった。
「行く宛もなくて、適当に友達の家に泊まり行ってたんだけど」
そっと、あたしの回した手を彼の両手が握って。
「やっぱり、あいつらには適わないなって。
俺とは違うけど、それぞれ苦い思い出を抱えてるヤツだからこそ憎いけど好きだなって」
そしてやっと、彼も顔を上げてくれる。
「文句言っても結局、毎朝すずが起こしに来てくれる場所が好きだなって……そう思ったよ」
言ってあたしの手を放すと、振り返って
「ありがとう」
チュッとリップ音を立てて頬に恋千くんの唇が触れた。
突然の出来事に驚いて固まっていると、目の前で生まれる笑顔。
「ははっ、さすが俺の可愛いペット」
「え、っ」
「先輩?あんまり隙だらけだと食べちゃうよ?」
意地悪く笑ってみせた表情は、もういつも通りの恋千くんだ。
「……あたし、ペットじゃないわよ?
でも、まぁ、帰ってきてくれるのずっと待ってた!」


