尋ねたあたしを見上げて、小さく笑うとまた俯いて答えてくれる。
「嫌いだよ、すっごくね」
ふと思い出したのは、いつか恋千くんの部屋を掃除しに行った時の言葉。
【ぬいぐるみなんかより、人のぬくもりがいい】
今だから言えるけど、もしかしたら本心から言っていたのかもしれない。
すごく、寂しかったんじゃないかしら?
だから、
「寂しい時は、寂しいって甘えてもいいのよ」
しゃがんで、そっと後ろから恋千くんを包むように抱きしめた。
思いつくことの中で、あたしができることはこれくらいしかないから。
「すずも、俺のこと可哀想だって思うんでしょ?」
響いて聞こえる震えた声に、近くにあるぬくもりを感じながら返事。
「ううん、すごいって思う。
つらいことを乗り越えようとしてる恋千くんが、あたしは羨ましい」
目を閉じて、相手も口を閉ざしたまま数分。
穏やかな水の流れと、オレンジ色の暖かい光。
優しい空気の中で、続いた沈黙。
「俺、洋館出てから気づいたことがあるんだよね」
先に口を割ったのは恋千くんだった。


