「だから、まだ親の記憶が強く残ってない弟を里子に出した。
結局、それからオレは独りになって洋館で暮らすことになった」
話を聞きながら、ふと気づいたのは供えられた花。
「あの花は………」
呟くように尋ねたあたしに、里音が付け加える。
「弟が時々供えに来るんだ。
あいつは、ちゃんと両親がいて、ちゃんとした家庭で育ってるよ。
もう中学生になったかな」
「…そう」
「たまに会うんだけどさ、まぁ普通に喋ってる。
仲は悪くないんだと思う」
それもそれで複雑だけど、と笑ってみせた彼に胸が苦しくなった。
愛琉さんが、いつか言ってた。
家族の話をするな、って。
「オレは結果的に家族って呼べる人と暮らせてない。
あいつは、家族がいる。
“実の”ではないけど」
やっと、愛琉さんの言葉の意味、理解できた気がするわ。
「でも、あいつは実の母親から捨てられたんだ。
どんなに言い訳したって、捨てられた側からしたら酷でしかない。
……って、恋千を見てると実感する」


