でも、いったい誰が?
黒猫は籠によって封じ込められてるし。
あたしは杖を出現させられてなかった。
残念だけど、もし杖があっても魔法が成功する確率は低いだろうし。
これだけ綺麗なタイミングで、音もなく魔法を使えるなんて。
相当、魔法が上手な人に違いない。
ゆっくり地上に着地した後、辺りを見回すと遠くで揺らめく黒い人影。
やっぱり誰かがいて、あたしたちを…助けて、くれたってこと?
「……ヒメ、」
地面に座り込んだあたしの目の前には、涙で顔をぐちゃぐちゃにした佐久間さん。
「何が、あったの?」
震える彼に、恐る恐る伸ばす手。
そっと頭を撫でてあげると、しがみつくように抱きついてきた。
「ぼくは、ダメなコだから…っ…いっそね、いなくなっちゃえばいいんだって」
嗚咽を殺して、悲しさに溢れた言葉が紡がれる。
「ぼくは痛い目に遭えばいいんだ。
怪我しちゃえばいいんだ。
歩けなくなっちゃえばいいんだ」
あたしは、背中をさすったり頭を撫でてあげることしかできない。
夜風はちょっと寒かった。


