俯いたあたしの耳に入ってきたのは、水の音と甲高い泣き声。
「ごめんなさい!」
思い立ったら行動しないと落ち着かない。
誠を振り切って、炎のほうへと走った。
燃えている家から少し視線を逸らしたところ──屋根の上で影が動く。
黒猫………?
目を凝らして見てみると、思った通りの正体。
黒猫が見ている一点へと顔を向ければ、1人の女の子がいた。
さっきの泣き声は、きっとこのコの声だわ。
女の子はまだ小さくて、開いた窓からは煙がもくもくと溢れ出て。
逃げ遅れちゃったのね。
窓の位置を考えたら、女の子は台か何かに乗って外を見てるんだと思う。
近くの屋根へと視線を戻せば、すでに黒猫の姿はない。
また捕まえ損ねちゃったけど、仕方ないか。
消火をしている人たちは、まだ女の子に気づいていないみたいだし。
このままじゃ、いつ炎に呑み込まれるか気が気じゃないもの。
人のいなそうな路地に入って、手を広げる。
キラキラと光りが零れて、現れた魔法の杖。
「お願い……」
風と水の魔法を組み合わせて、女の子を助けようと呪文を唱えた。


