誰も居ない屋上で
小さく呟いた後
早足で、階段を
駆け降りました。

私は岩滝先生が
居ない事を
確認してから
職員室に入り
荷物を取り、残ってた
先生方に挨拶をしました。

挨拶もそこそこに
「お先に失礼します」と
言って、職員玄関まで
走りました。

でも、それが
凶と出てしまったのです……

運が悪いんですかね?

何と、職員室に
居ないと思ってた
岩滝先生にあろうことか、
ぶつかって
しまったのです。

私は心の中で諦めの
ため息を付きました。

〈はぁ、透と
帰れませんね。
早めに屋上を
出るべきでした……〉

「よぉ、九重先生
そんなに急いで
どぉしたんだ?」

なんだっていいでしょうに。

「家の都合で
帰る所ですよ」

こうして話してる
間にも、刻一刻と
時間は過ぎて行き、
透に心配を
かけているんでしょね……

最悪です……

最悪な事に
廊下には誰ひとり
居ないのです。

〈透、ゴメンナサイ〉

私が全力で走った所で
岩滝先生には
勝てないでしょうね。

体育教師の彼と
日本史の教師では
勝ち目がありません。

職員玄関までは
まだまだですし、
じりじりと
一歩一歩
詰め寄って来る
岩滝先生に
絶体絶命の危機を
感じた時、後ろから
名前を呼ばれました。

「九重先生!!」

名前で呼ぶ訳には
いかないので、
苗字でしたが
聞き間違える
はずのない透の声でした。

「新庄君……」

私も苗字で呼びました。

「何だ新庄、
まだ残ってたのか」

馬鹿にしたように
鼻で笑いました。

「九重先生を離せ!!」

「お前には関係無いだろ?」

普通に考えれば
関係ないでしょうね。

「例え関係無くても
九重先生が
嫌がってんだから
離せよ、この変態野郎」

透が、私の名前を
呼んだ時には
既に岩滝先生に
捕まってしまった
後だったのです。

「生意気な一年だな」

一年生にしては
気は強い方かも
しれないですね。

「ふん!!」

今度は透が鼻で笑いました。