声がないのなら





待ち合い室―――


「…」
「…」
「…」
「池に...落とされたんだね。たぶん。」
沈黙を破ったのはナツメの声だった。

「アタシもさ、落ちた事あるからさ」
苦笑いを浮かべるナツメ。
「匂いがそうだった。」
「…」
「服とか破れてたから またいじめみたいだね。....可哀想。」
「可哀想............」
俺も糸が切れた人形のように
ぽかん としている。
ただ そこにいるだけ のように。



「え-。片桐マイさんの関係者ですか?」
優しそうなおじさんと静かなそうな看護士が入ってくる。

「あ、はい」
俺の変わりにナツメが答える。

「体には問題ありませんでしたが..
転換性障害だと思われます。」


「主な症状は無意識のストレスや不安、また本人の性格や家庭環境も関与して、手足の痺れ、声が出せない、目が見えない、手足の感覚異常などの感覚機能の障害が起きますが、自分が危険だと感じる場所や人がみていない場所では発症しないのが特徴です。」
「…」
「…」

「片桐さんが声を出せないのは
精神からきてますね。支えてあげてください。片桐さんにはきっと今貴方達を求めています。」

「俺は、…なにをしてあげれば…いいですか?」

「傍にいてあげることです」

「…はい」

「では。お大事に。」

「ありがとうございます..」

ナツメは何も言わず礼をした。





「俺が傍にいて救えるかな」