[マイ]


私がすんでいる
この町はすごく田舎。

それにスーパー
なんて物はない。


今日は
昼ごはんを買いに来た。

いつも買っている弁当を手にとる。

「えりな~?」
大きな声で名前を呼ぶ男。

きっとアレだ。

名前を間違えて
話しかけるナンパ。

「あれ?えりなじゃねぇし。」
「でも、えりなより可愛いよな。」
「ほんとだ。ほんとだ。」


…帰ろう。



急に手を掴まれた。


《離して…》
そうだ。私、声がないんだ。

「なに?抵抗しないの?」
男達が騒ぎだした。


…迷惑だ。

だけど私の力が男の力に
かなうわけない。

強く掴まれた右手を
見つめる。


バン


「おいおい。どこ見てんだよ!!!」
「…」

誰かがぶつかったみたい。
私はその拍子に右手が解放された。




「なんだ?この本」
「それは…」
「…手話?プッ」


…手話?


「…」
「手話とかキモイっしょ。」
「だっせー」
「クズだな」


ひどい。ひどい。




バシ






「痛ってぇ」

怖くて下を向いていたけど
音がしたから上を見上げた。

《ユウリ?…》

声が出ない声で助けを求める。





「サツが来ました」



「くそ」
と つばをはいて原付バイクで
去っていった。


やっと解放された。







「怪我ねぇか?」
「…」
私は頷いた。

とっさにノートを持ち書いていた。



『私の為ですか?』





「え?」


何でこんな事書いたんだろ…



『手話の本』




「…君と話したかったから」





『マイ』

「何が?」

『私の名前、マイ』







「マイ」

ユウリは小さくささやいた。





『助けてくれてありがとうございます』

「…」

はやくはやく。

はやく帰らなきゃ。

彼の顔を見ると弱音はいてしまう。




…はやく。