あれから俺は
手話の本を毎日読んでいた。
学校へ行く途中
手話の本を忘れたと分かれば
バスを捨てて本を取りに行った。
当然田舎だからバスはもう来ない。
そんな自分に呆れながら
歩くほど
俺は『手話』が絶対になっていたんだ。
その日も手話の本を持ちながら
コンビニに行くと
本に夢中になっていたのか
黒い服を来ている男にぶつかった。
『どこ見てんだよ。』
黒い服を来ている男の後ろに
男の人達が溜まっている。
きっと5~6人だろう。
その中に小さく震えている
彼女がいた。
《まさか…》
「おいおい。どこ見てんだよ!!!」
「…」
俺はその震えている影が誰だか
分かり
本を落としてしまった。
「なんだ?この本」
「それは…」
「…手話?プッ」
「…」
「手話とかキモイっしょ。」
「だっせー」
「クズだな」
バシ
「痛ってぇ」
俺は彼を殴ったみたいだ。
手が勝手に動いた。
「サツが来ました」
「くそ」
と つばをはいて原付バイクで
去っていった。
まだ彼女は震えている。
「怪我ねぇか?」
「…」
彼女は頷いた。
俺は踏みつけられた手話の本を
手にすると
『私の為ですか?』
と彼女はノートに書いた。
「え?」
『手話の本』
「…君と話したかったから」
と俺は照れ臭くなって
下をむいた。
『マイ』
「何が?」
『私の名前、マイ』
と相変わらず綺麗な字で書いた。
―マイ
「マイ」
『助けてくれてありがとうございます』
「…」
返事をする前にマイは早足で
駅にむかって行った。
《マイ…か。》