震わせることすら出来なくなった私は、寒さで徐々に固まりつつある我が身を感じた。
私がここに来たとき、その覚悟は出来ていたように思う。
完全に動けなくなる前に、最後に言う言葉は決めていた。
「好き」
瞬間、私はぐいと彼から引き離され、カラシャンと音を立てて落下した。
「ごめん」
そう拒絶した、無機質な彼の声。
やっぱり彼は、深入りをしない。
私たち水は、彼──製氷皿で氷となり、彼は何回も何十回も、この出逢いと別れを経験しているのだから。
それでも私は、蛇口から溢れる私を受け止めてくれた彼が、好き。
だからきっとまた、外界で溶けて水蒸気になって、雨として降り注ぎ、流れ流れて会いに来ます。
何度あなたに振られても。
[了]



