あの着物の少女は、妬みの象徴。

 それを新人の壷の方に映し出すことで、依頼主はいやがってその壷に近づかなくなる。

 もしも追い払うことができなければ、売ってしまう可能性もあるだろう。

 そうすれば。

 そうすれば、再びあの壷は寵愛を得ることができるのだ。

 サヤは、少女の幻影が出ているにも関わらず、新しい壷をかわいがってしまった。

 そのおかげで、ずっと静かに継続してた怒りが、突然嵐のように荒れ狂ったに違いない。

「大丈夫か?」

 戻ってくるサヤの表情が緩まないことが、孝輔にはひっかかった。

 S値の変動に、何か悪影響でも受けたのだろうか。

 彼女は自分よりもはるかに影響を受けるだろうし。

「はい、大丈夫…ちょっとアテられたみたいです」

 ふぅ、と小さな深呼吸。

「何かお役に立てました?」

 気を取り直すように、サヤは孝輔を見た。

「あ、ああ…おかげで」

 この数値の変動を解析できれば、E値なるものの見つけ出せるかもしれない。

 大きな収穫だ。

「よかった」

 やっと、安堵による素直な嬉しさの笑顔が浮かんだ。

 白い歯が、こぼれる。

 あ。

 いま。

 孝輔の胸に何かがよぎった。

 それを、うまく言葉としてまとめようとした時。

 ピピピピピピ。

 孝輔のかばんの中から、突然巨大な音が響き渡った。

 聞き覚えのあるそれ。

 慌ててバッグを開けると。

 会社にあるはずの置時計が出てくるではないか。そのアラーム音だったのだ。

 針を見ると──ちょうど12時。

 昼飯の時間。

「あんの……」

 彼の脳裏では、茶髪メガネがVサインをしていた。