「そうだ、午後から今度の依頼の下見に行くんだったな、サヤちゃんも一緒に来るかい?」

 弟のこめかみの痙攣に気づかないまま、なめらかに直樹は言葉を続ける。

「いいのですか?」

「もちろんだとも、私のセルシオの助手席を空けておこう、ハハハ」

 向こうで交わされる会話を聞きながら、一体彼女に何の仕事をさせる気なのだろうと、孝輔は怪しく思った。

 普通の霊能力者とは、基本からまったく違う仕事の方式を取っているのだ。

 そんなデジタルなところに、精霊だのアナログばりばりな環境で育ったサヤが馴染めるのか。

 だが、この事務所の商売そのものは、ぼったくりもいいところだから、彼女一人の給料を出すなんて造作もないだろう。

 社員とは名ばかりで、単にサヤを扶養する気か。

 あ、ありえる。

 兄の性格を考えて、孝輔は軽いめまいを覚えた。

 人情的には間違っていないし、経済的にも可能だ。

 だが、心のどこかで『それでいいのかよ!』というツッコミが渦巻いてしまった。

 孝輔は、ケチというわけではない。
 ただ、技術畑の人間のせいか、効率や論理を重んじるところがあった。

 サヤは、そのどちらからも外れているように思える。

 いっそのこと、家政婦として雇えばよかったのだ。

 それならば、彼ももうすこし納得できただろう。