自分から話すことがあまりないのは、内気な性格が由来しているわけではない。


――私は少し複雑な事情があり、あまり人と関われない。


仲良くしたくて、話し掛けたくなって…………


でもいつもそれが邪魔をして、話し掛けれないでいる。



「糸柳さん、どんな本読んでるの?」



いつもは挨拶で終わりなのに、今日は違った。

斎藤さんに話し掛けられて、私は少し戸惑いながらハードカバーの表紙を見せる。



「え゛、それ何語?」


「……ドイツ語です」



遠慮がちに答えると、斎藤さんは目を丸くした。



「ドイツ語とか見たこともないよ。凄いね、糸柳さんは」



笑って褒めてくれる斎藤さん。斎藤さんが笑うと、少し吊り上がり気味の目尻が垂れて、優しい印象になる。