「月の歌声が聴こえるわ」

「君の還る場所はここだよ」

「いいえ、月が私を呼んでいるの」

秋もぐっと深まり、学園祭の季節がやってきた。

「かっこいいなぁー!!久世凛音!惚れちゃいそう!ね、加奈!」

放課後の演劇部の部室。

清香が演劇部の稽古を見ながらはしゃいでいた。

どうしても見学に来て欲しいという清香の頼みで、加奈は半ば無理やり部室に連れてこられていた。

「清香も部員でしょ?稽古しないの?」

「私は、通行人Aだもん。演劇部は久世凛音の人気で部員が飽和状態なの。私は凛音が見られればそれでいいの!」

清香ったら。

加奈はあきれ顔でため息をついた。

久世凛音(クゼ リオン)。

演劇部の部長で、十夜と同じクラスの3年生。

優等生で長いサラサラの黒髪、スタイルは抜群。

顔は大和撫子とも言うべき和風美女。

演技力・歌唱力は単なる演劇部員のワクを超え、いまや芸能事務所からのスカウトも来てるともっぱらの噂だ。