「転校するのね?」

「はい、火事で高校に入ってからの記憶を失ってしまって、ここにいても思い出せなくてつらいから。いっそ新しい学校で一から始めようって思って。」

「がんばって。ご家族は元気なの?」

「はい、お兄ちゃんも怪我はしたけど元気で、美織のこといつも助けてくれて。お父さんも、美織の病気が治ったって驚いてて、すごく元気です」

「そう、よかった!」

「あの、どこかでお会いしました?」

「・・・美織ちゃん、あなたなら幸せになれるわ。元気でね」

美織はきょとんとした表情で加奈を見つめる。

「美織ちゃん、頑張れよ」

十夜が美織に笑いかける。

「美織ー!行くぞー!」

遠くから伊織の呼ぶ声が聞こえる。

「それじゃ、私たち、行くね」

「あっ!」

美織が十夜の袖を引っ張って引き止める。

「あの、名前・・・教えてください」

「須藤十夜だ。こっちは渡瀬加奈」

須藤とおや・・渡瀬かな・・・。

美織は二人の後姿をいつまでも見つめ続けていた。


「十夜、これでよかったのよね?」

「ああ、月の再生によって生まれ変わった美織には俺たちの記憶なんかないほうがいい。きっと幸せになれるよ」

「うん・・・」

美織ちゃん、あなたのお母さんのムーンストーンが私の能力を甦らせてくれたの。

生命の生死。

私には大きすぎる力だけど、美織ちゃん、あなたを救うことができた。

幸せに、
どうか、幸せに・・・。