「ただいま」

「加奈?びしょ濡れじゃないの。どうしたの!?」

家に帰り着くと、母が慌てた様子で出てきた。

母には隠しても仕方ないと思い、加奈は核心から語りだした。

「お母さん、私、月の神子なのね?」

母の顔が一瞬凍りついたのがわかった。

「お母さん、私今までお母さんにいっぱい迷惑かけた。お父さんのことも、私知らなくて。お母さんの悲しみなんて何も知らないで、ごめんなさい」

母は、突然その場に崩れ落ちると、うなだれたような表情で言った。

「加奈、全てを知ってしまったのね・・・。違う、違うのよ。私はあなたを憎んでいたんじゃない。愛していたのに、愛さないようにしていた。あなたは、月の神子。これからどんなつらい目にあうか・・・。もう二度とお父さんの時のように苦しみたくなかった」

「お母さん・・・」

加奈には母の苦しみが痛いほど伝わっきた。

胸が張り裂けそうに、痛い。

「加奈、いなくならないで・・・。あなたは、私の大事な娘。その日を考えると怖くてたまらないの」

お母さん、泣いてる。

私のために、泣いてくれてる。

全てが誤解だった。

お母さんは私を愛してくれていた。

加奈はしゃがみこんでいる母を強く抱きしめた。

「お母さん、私はここにいるよ。お母さんが大好きだから、絶対離れないよ」

加奈の瞳からも、涙がこぼれ落ちていた。

「加奈、ありがとう・・・」

母と初めて本当に心が通じ合った気がした。

お母さん、ここまで育ててくれて、ありがとう…。

私は月の神子である前に、お母さんの娘でありたい。

加奈は、そう強く願った。