「瑞樹…」

止まない雨。止まらない鼓動。

胸の鼓動が瑞樹に聞こえそうな気がするくらい激しく鳴り響く。

「加奈、ごめん。君をずっと目覚めさせないであげたかったけど、もう時間がない」

時間がない?

そう言った瑞樹の顔は苦しげに歪んだ。

「月見草の写真は僕たちの合図だった。敵が目前に迫っている、というね…」

加奈は月見草の写真を思い出した。

裏に書いてあった文字「カナン」。

十夜が私をカナンと呼んだことをうっすらと思い出していた。

「雨・・・。この雨は僕と十夜が作ってる最後の結界だ。奴らは雨の日は絶対に現れない。この雨には僕達ガードのエナジーが込められている。そして、奴らの接近を少しでも遅らせて時間を稼ぐ。君を目覚めさせる時間が必要なんだ」

瑞樹はフっと微かに微笑んだ。

コートを脱ぎ加奈の頭にかぶせる。

「瑞樹、・・・泣いてるの?」

瑞樹の瞳が青く、青く輝く。

雨に濡れた瞳は泣いているようだ。

その時、突然視界が真っ暗になった。

気がつくと、瑞樹に抱き寄せられていた。

かぶせられたコートと瑞樹の胸で何も見えない。

「加奈、僕が護るから」

今、この瞬間だけは、何も怖くない。

瑞樹、好きよ。

ずっとずっと好きだよ。

瑞樹がいれば、何も怖くない。

ほんとうにそう思った。

「瑞樹、全部話して。私なんでもする」

「明日、『天使の泉』に行く。そこで全部話すよ。加奈は知らなければいけない。自分の存在の意味を」