月夜の天使

体が震える。

さっきの光景が頭の中でぐるぐる回り、信じられない思いでいっぱいだった。

「な・・んで?」

月野いずみが静かに語りだした。

「加奈、あなたは月に選ばれたただ一人の存在なの。あなたは月の神子(みこ)。前世、そのまた前世・・・何百年の時を経てもなお、あなたは神子なのよ」

ミコ?ゼンセ?

物語を聞いているかのような気持ちで体はフワフワした。

「あなたはまだ目覚めてないわ。女性に生まれたあなたは能力(ちから)を抑えることによって敵から逃れてきた。でももう限界ね。瑞樹がいくら結界を張ってもあなたの微弱な気を感じ取って奴らが近づいてきている」

「待って!あなたたちは一体誰なの?瑞樹もあなたたちと関係あるの!?」

須藤十夜がゆっくりと加奈に近づいてきた。

「加奈、瑞樹と俺は君のガードだ」

「ガード?」

聞きなれない言葉に声のトーンが上がった。

「何百年の時を経て、何度生まれ変わっても君を護り続けてきた。俺たちは神子を護り戦う月の守護天使(ガード)だ。瑞樹も俺も神子のためなら命も懸ける」

十夜は加奈のもとにひざまづくと、熱い瞳を一心に加奈にそそいだ。

「カナン、必ず護ってみせる」

十夜の瞳には自信と情熱が見て取れた。

この話が本当なら、十夜の瞳は何世紀も私を見てきたということ…!?

信じるにはあまりにも突拍子もない話に、頭が熱を帯びたように火照りはじめ、気がつくと視界が霧の中にいるように狭くなっていた。

「さぁ、月の導きによって、神子とそのガードが揃った。今こそ、神子の力を開封せん!」

月野いずみの瞳が妖しく青に輝くのを見た瞬間、加奈の意識は、深い闇の中に遠のいていった。