月夜の天使

凛音は、詩苑が落としたナイフで両手と両足のロープを切り落とした。

「凛音・・なぜ?なぜ助けてくれたの?」

地面に両膝をつき、ロープの跡のついた手をさすりながら、カナンは凛音を見上げる。

「わからない・・・。ただ、十夜に言われて思い出した。瑞樹が私とルナを置いて出て行く前、私に月見草の種と手紙を置いていった。手紙には、『この種が君が愛された証だ』と」

そういって凛音は、スカートのポケットから月見草の種を取り出す。

「この種は、加奈さん、あなたに返すべきかしら?愛を知らない私には、使い道がないのよ」

凛音は凛とした笑顔を浮かべ、種をカナンに差し出す。

「凛音、それは君が持っていて。今、僕が咲かせてあげるから」

え・・・?

瑞樹はそう言うと、まるで天使のような笑みを浮かべた。

彼は、まるで天使だった。

確かに、この地上に存在した天使だった。

「カナン、やっと僕の心を君に伝えられる」

「瑞樹・・・やめて、何考えてるの?」

瑞樹、まさか・・・・。

「カナン、僕は、カインとしてでも、瑞樹としてでもなく、一人の魂として・・・」

瑞樹はカラスに囲まれた詩苑に向かって走り出す。

「この魂が燃え尽きても、カナン、君を永遠に愛し続ける」

瑞樹が詩苑の胸に片手を突きつけ、そして、唱える!

「月へ・・・還ろう!!」

詩苑の全身が痙攣し、瑞樹の胸の中へ崩れ落ちた。

「シオン・・・もう、いいだろう。僕らは、月へ還ろう」

詩苑を囲んでいたカラスたちから、青の輝きを放つ邪悪な玉が姿を現す。

青い玉たちは一斉に、瑞樹と詩苑に降りかかる。

「瑞樹、いやだ!いやー!!」