月夜の天使

「詩苑、待って、何を言ってるの?」

詩苑はカナンを振り向き、カナンの髪を一束すくい取って、キスをした。

「月の女神、あなたが二人を愛していることは、この俺がよく知っている。永遠にあなたを追い続けてきたのだから。だから、決めて差し上げるのです。二人のうち、生き残ったほうがあなたと共に歩むことができると、ね」

詩苑は狂っている・・・二人を戦わせるなんて!!

詩苑は狂ったような笑顔を浮かべ十夜と瑞樹に向き直る。

「さぁ、月の女神を賭けて、戦え!」

詩苑はナイフを取り出し、カナンの首にピタリとつける。

「詩苑!俺と瑞樹が戦うわけないだろう。カナンを離すんだ!」

詩苑は手のひらから紅く燃える炎を浮かび上がらせ、木の杭に近づける。

「このまま、燃やしてしまうことだってできるんだ。瑞樹、どうだ?カナンが燃え尽きるところをみたいか?」

うつむいていた瑞樹がゆっくりと顔を上げ、十夜に向き直り、冷たい笑みを浮かべる。

「十夜、決着をつけよう。・・・月の女神を賭けて」

「瑞樹!?」

十夜が目を見開く。

「ハハハ!瑞樹、やはりお前はカインだな!」

瑞樹の全身から炎がほとばしり、十夜目掛けて放たれる!

「瑞樹!!やめて!!二人が戦うなんてやめてー!!」
十夜は両手を顔の前で十字に交差させ、水の障壁を作る。

炎と水がぶつかりあい、十夜の顔の前ではじけ飛ぶ。

その一瞬をついて、瑞樹が十夜の後ろに回り羽交い絞めにする。

「瑞樹、やめるんだ・・・」

「十夜、このまま聞いて。僕は詩苑の封印を解く鍵を知っている。僕達兄弟は永遠の命を手に入れてはいけなかったんだ。僕は詩苑とともに、月へ還るよ」

「瑞樹、お前・・・?」

突然、黒いカラスの大群が現れたかと思うと、詩苑目掛けて飛び込んでくる。

「・・・っく。凛音!お前か!!」

凛音が息を切らせ、カナンのもとまで走ってくる。

「加奈さん、今、ほどいてあげる」