月夜の天使

どこからか黄色のカナリヤが凛音に向かって羽ばたいてくる。

凛音はカナリヤを寂しげに見つめ、その腕に止まらせる。

「小さな頃、母のルナを愛していた記憶がある。幸せだった。その愛が永遠に続くと思っていた」

カナリヤは、凛音の瞳を見つめたかと思うと、瞬く間にその翼を空に舞わせ飛び立っていった。

「愛せない私は・・・愛されることもない」

「それは違うよ、凛音」

ステージ脇から、十夜がゆっくりと姿を現した。

「俺は君が産まれた時から、君を育てるカナンをずっとそばで見ていた。カナンは君を誰よりも愛していた。・・・ルナよりもずっとね」

凛音は微かに戸惑いの表情を見せ、唇を振るわせる。

「凛音!騙されるな!その女は、カインと十夜、二人に愛されぬくぬくと幸せを味わっているんだぞ」

ピアノのそばにいた詩苑がメガネをはずし、加奈の腕を押さえている二人に目配せをする。

二人の男子生徒は、空ろな青い目を加奈に向けると、加奈の腕と足を取って抱きかかえ、詩苑のもとへ駆け寄る。

「何するの!!離して・・・!」

「加奈!!」

瑞樹と十夜が加奈に駆け寄ろうとしたそのとき、体育館中の生徒達が一斉に二人の前に駆け寄って立ちはだかった。

「くそ!お前達、どけろ!」

十夜が加奈に向かって叫ぶ。

「加奈-!!」

加奈は詩苑に後ろ手を押さえられながら、十夜と瑞樹に向かって叫ぶ。
「十夜!瑞樹!私たち3人は絶対に離れない!!」

ドス!

腹を殴りつけられ意識が遠のく中、詩苑の声を聞いた。

「今夜はちょうど満月。長かった因縁に決着をつける最高の日だ。月が姿を現すその時、俺たちの物語が始まったあの場所で待っているぞ」