月夜の天使

第1幕。

このシーンは、月から舞い降りてしまった月の女神が記憶を失い、森をさまよい様々な人に出会う場面が描かれる。

凛音は膝まである白の薄い布をまとい、森を彷徨い歩く。

「誰か私を見つけて」

「私の愛はどこなの?」

凛音の歌声は、飛んできてはすぐ離れてしまう鳥のように、儚く繊細だ。
凛音・・・その美しさに圧倒される。

観客たちが息を呑むのが伝わってくる。

凛音は様々な人に出会うが、自分を見つけることができない。

「誰もほんとうに私など愛していない」

そう気づかされた凛音の切ない叫びで1幕は幕を閉じる。

いったん幕が下り、観客たちが凛音を絶賛する声が聞こえてくる。

「久世凛音ってほんと女優さんみたい」

よかった、ここまでなんとか順調だわ。

加奈は、安心しつつも2幕から登場する瑞樹と十夜を思って緊張が嫌がおうでも高まる。