月夜の天使

あまりに泣き過ぎて、清香には気を遣わせてしまった。

演劇部の準備に間に合わないからと、清香には先に行ってもらった。

なぜ泣いているのかわからないまま、清香は心配げに屋上をあとにした。

屋上に一人になると、大きな空の中にたった一人、ぽっかり浮かんでいるようで、ちっぽけな自分に余計に涙がでてきた。

加奈はぺったりと座り込み、空を見上げて泣く。

そういえば、いろんなことがあって忘れてたけど、部室で凛音と瑞樹がキスしてるのを見たんだっけ・・。

なぜ・・・瑞樹なんだろう。

凛音の相手が、なぜ・・瑞樹なの?

「加奈、こんなところにいたのか」

見上げると青空を背に加奈を見下ろしている十夜がいた。

「な・・んで?」

「加奈の親友が、お前が泣いてるから早く行けってさ」

清香が十夜を呼んでくれたんだ。

「・・・十夜!十夜も演劇部行かなきゃいけない時間じゃない!」

十夜はその切れ長な瞳を細める。

「さっき、凛音と詩苑が一緒にいるところを見た。この舞台、凛音は何かを企んでいるかもしれない」