懐かしい記憶。

私が渡瀬加奈として生まれる前から、『天使の泉』は、私を見守ってきた。

ここには、永遠がつまってる。

加奈は一歩一歩自分の足音を確かめるように『天使の泉』の中心へと歩いていく。

ほら、ここにも『永遠』があるね・・・。

『カナン』

絵の中の少女は、月に横たわり加奈に笑いかけるように可憐な笑顔をたたえている。

ミズキがカナンのために描いてくれた絵。

これを見てカナンは何を思ったのだろう・・・。

まるで永遠に愛など知らないような無邪気な微笑み。

いっそ、愛なんて知らないほうが、ミズキは幸せだったのかもしれない・・。

そうすれば、カインの一族を裏切ることもなかった。

カナンのためにあんなに傷つくこともなかった。

「永遠なんて、いらない」

加奈の唇から言葉が溢れる。

「永遠がこんなに苦しいなら、永遠なんていらない」

同時に涙がつたい加奈の頬を濡らす。

「加奈」

温かい大きな腕に包まれ加奈はハッとする。

後ろから抱きしめる温かなその胸。

加奈の耳元で十夜が囁きかける。

「加奈、君が望むなら俺は永遠の命なんてくれてやる」

「十夜?」

「瑞樹の封印はもうすでに解けている。いつ魂を食われてもおかしくない。そして、いつカインに戻ってもおかしくない」

十夜の加奈を抱きしめる腕に力が入る。

十夜・・何を言おうとしてるの?

「加奈、俺の魂の封印を解いて瑞樹に俺の魂を与えれば、瑞樹は月の一族になり、封印も復活する」