「う、寒いっ！」

秋風はますます強まり、学校帰りの加奈に容赦なく吹き付けてきた。

「今日は一人かぁ」

帰り道いつも一緒だった清香は、今日はいない。

元カレと復活して放課後デートだと嬉しそうに報告してきた。

「寒いじゃんか。清香の白状モン！」

なんてつぶやいてみたけど仕方ないかと肩を落とす。

校門を出てしばらく歩いて橋に差し掛かる。

橋の上は肌を刺すように冷たい風が渦を巻いていた。

寒さに身を縮めるように橋を渡っていると、自分を見つめる視線を感じて加奈は立ち止まった。

橋の上で欄干に寄りかかりながら加奈をじっと見つめる制服姿の男性の姿が映った。

誰？

見つめる瞳。

思わず見つめ返してしまうひたむきな瞳。

立ち止まった加奈に向かって男性がゆっくりと近寄る。

黒く流れるような髪を風に揺らし、意志の強そうな瞳を一瞬も加奈から離すことなく、男性は加奈に近寄る。

うちの学校の制服だ。

そんなことを思ってるうちに男性は加奈の前に立ち止まった。

｢渡瀬加奈さん…だよね？｣

男性は開口一番に加奈の名を口にした。

クールな表情とは対照的に熱を帯びた瞳。

気圧されるようなその瞳に加奈は立ち尽くした。

｢どうして、私の名前を…？｣

やっとそれだけつぶやいた。

｢渡瀬瑞樹とは剣道部で一緒なんだ。俺は瑞樹の先輩で君と同じ３年だよ｣

男性は少し口の端を上げて笑みを作ると持っていたカバンを開けて何かを取り出した。