おかしいな。冷静でいるはずなのに、やっていることは全力疾走。
こんな炎天下を走るなんて馬鹿げたことだ、なのに歯止めが利かない。
はしれはしれと、メロスじゃないのに、もしかしたらそれの疑似体験でもしているのか、靴底でコンクリを蹴った。
途中、転ぶ。
だが、また立って、走った。
転ばないように走るだなんてそこまで気が回らない。
ただ一刻も早く。行かなきゃ、行け、走れ、雫、行け、しずく、走れ、しずくしずく――
「っ、くそっ」
咳き込むついでにあがった唾を吐いて、目にしたたる汗を拭うのが惜しく、まばたきして落とした。
向かうは、未だに鼓膜にねちょりと納豆並みにねばつく声の場所。
木楽町東団地。
団塊世代の遺物であり、取り壊されることなく放置された無人の団地はここから一キロ以上はあるだろう。
だとしたらこの全力疾走はペース配分を間違えまくっているが、止まれるかよ、くそったれ。


