掴めるものが何もない。 得たものもなく、するりと抜けていく。 脳に直に響く、囁かれた声は笑っていた。 なのに、ソレは涙を流しているように見えた。 ――ああ。 呼吸が苦しい。 考えるのを放棄したいのに、放棄すれば、ソレに成り代わってしまうから思考は止めない。 実際、ソレは表面上に出てきた。 ――泣いていたのは、僕だった。