私たちから遅れる事、数分。

応接室に入ってきたのは、
1人の女性だった。


案内してくれた係員から何やら書類を受け取ると、その女性だけが残った。

キリッとしたその態度から、
事務員さん?とか、所長の秘書の人か何かだと思っていたの。

でも、
太磨が恐れていたのは、
その人、本人だった。


「――…太磨ちゃ~んっ!!!」

係員の気配が消えるのを待って、女性は書類を机に投げ捨てると、太磨に向かって両手を広げた。

太磨は椅子から立ち上がると、驚いた様に後退り。

それにも構わず、
女性は無理矢理に太磨の体を抱き締めていた。

バキバキと音が鳴りそうな、
その力強い抱擁に、
太磨は「ぎゃあぁぁ」と声を上げた。


にゃ…
『…た、太磨…。た、太磨が「ぎゃあ」って言った…』

「……言ったわね…」

あ、
この人が所長なんだ、と理解した瞬間だったわ。


「…相変わらず…――痛い!離せっ!!退けよ、花梨!!」

『かりん』さん…
それが所長の名前らしい。

がたい良い太磨を羽交い締めにして「ぎゃあ」と言わす。

この第一印象だけで、
虎白は彼女を「危険人物」と判断した様子。
私の胸にピタリとくっ付いて離れようとはしなかった。